プーシキン美術館展


横浜美術館で開催しています。7/6から開催され話題にのぼっておりました。印象派の絵画ばかりならポーラ美術館でよく観たしねと夫と話していたのですが、BSテレビのぶらぶら美術館で取り上げ、印象派ばかりではなく素晴らしい作品が多く紹介されていると知り出かけました。
プーシキン美術館展はロシアの文豪の名前からきています。古代エジプトから近代まで外国の美術品を数多く所蔵しています。この外国の作品というところが特徴で、1762年ロマノフ王朝皇帝のエカテリーナ2世女帝が即位すると、当時文化の中心地であったフランスより名作を次々に買い付けます。エカテリーナ2世の収集実務を担当したのはパリ在住の外交官ニコライ・ユスーポフ公爵。画家達のアトリエにも通うほど熱心でした。自身も熱心なコレクターでした。プッサンブーシェ、アングルなどは王侯貴族が収集した作品です。







ブーシェユピテルカリスト」(1744年)
18世紀ロココ芸術を代表するブーシェの逸品です。女神ディアナの従者カリストを誘惑しようと、ディアナに姿を変え近づくユピテル。その後ろにはユピテル象徴である鷲が潜んでいます。清楚な女性二人ですが、なにか官能的な香りのする絵画です。なんともなまめかしい。


















アングル「聖杯の前の聖母」(1841年)
19世紀の新古典主義の巨匠。1855年に即位したアレクサンドル2世が、皇太子時代にアングルに依頼した作品です。マリアの後ろには、ニコライ1世とアレクサンドル皇太子をたたえるべく、2人と同名の聖人が描かれています。マリアは優しく気品に満ちたお顔ですね。












19世紀後半になるとロマノフ王朝は衰退していきます。替わって商人達が台頭しコレクションは王侯貴族から新興富裕層へと移ります。
繊維業や貿易で冨を築いたセルゲイ・シチューキンとイワン・モロゾフ。二人とも自らパリの画廊に出向きルノアールゴッホゴーギャンマティスピカソの作品を買い付けました。彼らはビジネスが目的ではなく本物を収集したいという情熱があったのだとか。特にシチューキンはゴーギャンに、モロゾフセザンヌに没頭したようです。




ルノアール「ジャンヌ・サマリーの肖像」(1877年)
ポスターにもなり展覧会を象徴している作品です。ルノワール印象派時代最高の肖像画です。バックのピンク色が優しく、モデルの女優ジャンヌ・サマリーの柔和さが強調されていますね。これは今回の展示会の目玉としての貫禄満点でした。(モロゾフ収集)















ゴッホ「医師レーの肖像」(1889年)
耳を切ったゴッホが入院した病院の若い医師レーです。ゴッホを診療しました。ゴッホは感謝一杯の気持ちで描いたのでしょうが、レーは気に入らなくて鶏小屋の穴をふさぐのに使われたとか。可笑しいですね。ゴッホらしい太い線でバッグの緑、赤、オレンジも鮮やかでいいと思うのですが。レー医師に早々に売り払われた後、シチューキンの眼にとまったようです。(シチューキン収集)










1917年のロシア革命でシチューキンとモロゾフは国外脱出を余儀なくされ、コレクションは没収されます。互いに競ったであろう二人の収集家、くしくもプーシキン美術館で一つになりました。
革命で焼かれてなかったことが幸いです。今こうして我々が観賞できることに感謝です。